生産データを活用し、属人性に依存しない
持続可能な生産管理を実現します。
岐阜大学 航空宇宙生産技術開発センター センター長
酒井 昭仁特任教授
岐阜大学 航空宇宙生産技術開発センター
横田 康成教授
インタビュー
INTERVIEW

生産データを活用し、属人性に依存しない
持続可能な生産管理を実現します。
岐阜大学 航空宇宙生産技術開発センター センター長
酒井 昭仁特任教授
岐阜大学 航空宇宙生産技術開発センター
横田 康成教授
航空機の生産現場では、機体を構成する膨大な種類の部品を、決められた順序で、必要なタイミングに揃えることが求められます。部品の調達・加工・組み立てを担う工程は複雑に絡み合っており、一か所で遅延が生じると、その影響が広範囲に及びます。加えて、人手不足が深刻化するなか、これまでのような熟練技術者の「経験と勘」に頼った生産管理のあり方も、見直しを迫られています。
岐阜大学 航空宇宙生産技術開発センターでは、川崎重工業株式会社との共同研究を通じて、ジョブショップ型生産の効率化にデータサイエンスの視点からアプローチしています。生産工程のデータを活用したモデル化・可視化・シミュレーションにより、属人的な判断に依存しない、持続可能な生産管理体制の実現を目指しています。

《酒井》
航空機の生産では、機体を構成する部品の種類は膨大で数十万、数百万に及びます。月産数機という少量生産の中で、同じように見えて仕様が微妙に異なる部品が多数存在するという超少量超多品種の世界です。機体の組立においてそれぞれの部品には決められた取り付け順序があり、必要な部品を、必要な取り付けタイミングで揃えることが求められます。
超少量超多品種の航空機部品は、工場内および近隣協力企業に全部で数百か所存在するショップ(機能別加工区)の中から、必要な加工を行うショップを選択し、そこを工程順に巡って加工されます。このような生産方式をジョブショップ型生産方式と言います。航空機の場合、部品種類/点数が膨大でショップ数も多いことから、部品がショップを巡るパターンは数万通りにも及びます。このため、そもそも部品ごとの生産スケジュールを最適化することは不可能でした。したがって、個々の部品の生産スケジュールを最適化することはできず、時には特定のショップに負荷が集中して生産が遅延することもありました。また、どこかのショップで異常が生じた場合、その影響がどこまで及ぶかを即座に把握することも容易ではありません。異常発生時には、職長や班長などを経験してきたような経験豊富な担当者の知識と判断に頼って対応してきましたが、全てに対応しきれるものではなく、しばしば生産混乱も生じていました。このような事態を避けるには生産開始日をどんどん前倒しにして余裕を増やすしかなく、結果、仕掛かり在庫が増大するという悩みが生じていました。
こうした背景から、データサイエンスを活用して生産スケジュールや各ショップの負荷を最適化するとともに、生産管理を省人化する仕組みを構築するのが目的です 。
この研究の特徴は、製造工程の中身には踏み込まず、データサイエンス的アプローチで生産スケジュールの最適化を目指して効率化を行うことです。過去の膨大な工程実績データから原因と結果の関係を数理的に解析し、シミュレーションを重ねました。
《横田》
この研究で最初に取り組んだのは、工場全体の状態の把握です。解析に用いるデータ自体は、S/Oと呼ばれる加工命令書のシステムにより、部品の入出記録としてすでに蓄積されていました。課題は、そのデータをどう読み解くかでした。どの部品がどのショップにあり、加工がどの段階にあるかを、ステータスも含めてデータとして捉え、全体を可視化します。
しかし、各ショップによって入力のタイミングや精度にばらつきがあり、加工完了後にまとめて入力するケースや、開始と同時に入力するケースなど、運用に差が生じていました。そのため、S/Oの記録を参照するだけでは、ある部品の加工が完了しているのかどうかを正確に把握できない部分がありました。まずはそういった部分を洗い出して整理したうえで、コンピューターによる計算と予測を行います。これによりボトルネックになっている工程を特定しました。
《酒井》
企業側では、この研究に用いられる水準で加工実績データの精度と粒度を整えられるシステム構築を行った結果、部品がいつどのショップを通過したかが即座に把握できるようになりました。航空機の生産においてトレーサビリティは必須要件ですが、この取り組みはトレーサビリティの証明に関する省力化にも貢献しています。
《横田》
研究初期は手探りな部分も多く、大規模な計算機を用いたシミュレーションが必要でした。しかし解析手法が確立された現在では、通常のパソコンでも対応できるようになっています。
またこの研究では、シミュレーションによる繰り返しの検証を行っています。シミュレーション、つまりサイバー空間であれば、実際の工場でリスクを負うことなく、試行錯誤を重ねることができるのもメリットです。
《横田》
共同研究のきっかけは、内閣府の地方大学・地域産業創生交付金でした。川崎重工業から課題を提示してもらい、大学側からは対応できそうな研究テーマを持ち寄る形で、マッチングが行われました。データサイエンスを専門とする横田教授にとって、今回の生産工程データの解析は、取り組める課題のひとつと映りました。
しかし、実際に着手すると、工場内部のデータを扱う難しさに直面しました。企業の生産現場に関わる詳細なデータは、外部の研究者がなかなか手を出しにくい領域です。なぜなら、大規模かつ生の現場データを正確に読み解くには、相応の経験と知識が必要だからです。データサイエンスの分野でも人手不足が課題となっており、スキルを持つ人材の確保が非常に難しくなっています。
《酒井》
企業側にとっても、生産現場の内部データを外部に預けることには慎重にならざるを得ません。部品の中身についての情報は秘匿されているものの、生産期間などのデータでも、データを預ける相手への信頼が不可欠です。横田教授との共同研究が実現したのも、こうした信頼関係が基盤にあってのことです。
内閣府プロジェクトの終了後は、川崎重工業から研究員の派遣を受けながら共同研究を継続しています。現場の実情をよく知る研究員との連携により、データの読み解き方が精緻になり、研究の精度も高まってきました。
《横田》
現在はすでに川崎重工業の生産現場への導入が始まっており、改善の成果も見えてきています。今後は、この手法をさらに広く展開していくことを見据えています。同様の課題を抱える企業は多く、特に中小企業では工場全体がひとつのジョブショップに相当するケースも少なくありません。生産ラインの最適化についても相談を受けており、成果が出つつあります。
また、この研究で培った手法は、航空機生産に限らず応用が可能です。工場の生産工程と同様の構造は、オフィスの業務フローにも見られます。担当者への業務集中や、処理速度のばらつきといった課題も、同じアプローチで可視化・最適化できる可能性があります。
《酒井》
企業は必要な技術があれば積極的に活用します。この研究で生まれた手法も、さまざまな分野や企業に展開できると考えています。大学だけでは見えない視点を、企業との連携によって補いながら、研究をさらに深めていきたいと思います。
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